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 桜の季節がやって来る。    例えば、この公園を彩る緑は見事なものだ。    青々とした芝生を走り回る子どもたち。    桜散る並木道を闊歩する人々。    ベビーカーを引いた仲睦まじき夫婦。  通りざま、母親が腕に抱く赤子を盗み見た。    紅葉の手のひら。人差し指を無邪気に掴む姿。    殺意を覚える自分は、病んでいる。    あんな風に、無償の、無作為に選び抜かれた愛を受けられたなら。    穢れの無いままでいられたら。    今の自分は醜く腐っていて、触れあうことすら許されない。     桜の季節がやって来る。    人々は華の歌に魅了されるだろうに、あたしを埋め尽くすのは、恐怖と凌辱の記憶だった。   「香枝」    呼びかける女性の声。現実に立ち戻すのは、   「彩夏(さやか)、凄い……偶然だね。図書館行ってたの?」    あたしの唯一ともいえる親友だった。
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