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パリスはアフロディーテの姿が消えた瞬間に大きな溜息を吐いた。このトロイア王国の競技会と言えば英雄ヘクトールが出てくることで有名じゃないか。こんな羊飼い風情がヘクトールと戦えば瞬殺されてしまう。いきなり無茶を言うものだ。と、頭の中で呟いていると、ゼウスに強く肩を叩かれた。
「ご苦労であったな、パリス」
「ゼウス様……」
「お前を選んだ私の目に間違いはなかった」
神々ではしがらみがある。人では神を崇め称えるも信仰に差が出てしまう。この二者では公平な判定は出来ない。人ではあるが王国全体の信仰に左右されずに、人として見たままありのままの判定を出来るものとして、王国に所属せずに神の血が流れるパリスをゼウスは選んだのだった。他にも同じ条件のものは探せばいるのだが…… 「権力」にも「勝利」にも興味を示さないものとなると数は限られてくる。ゼウスはパリスのその点を買ったのだった。ゼウスも消去法でパリスを選んだのである。
「そんな…… 私の方こそゼウス様に選んで頂き光栄の至りです」
「うむ、お前の公正な判断は未来永劫歴史に残るものであるぞ」
ゼウスもオリュンポス山へと戻って行った、最後に一柱残ったヘルメスはパリスの肩を軽く叩く、それには「エール」の意味が込められていた。
「これから大変だと思うけど、頑張ってね。」
「え…… どのような意味でしょうか」
「神の思し召しだよ、意味はこれから知るんだ」
ヘルメスは素早くオリュンポス山に駆けて行った……
ゼウスは消去法でパリスを選んだ、しかし、「この子はやがてトロイアを全て焼き尽くしてしまいます」と、神からの啓示があったことを考えると必然とも言えるだろう。
パリスも消去法でアフロディーテを選んだ、美しい女性を選ぶ審判であったことを考えると「美」そのものであるアフロディーテを選ぶことも必然だったのかもしれない。
世界で一番美しい女性を消去法で選んだ結果……
トロイア戦争を引き起こすきっかけとなり、自らの母国も命も消去されることになるとは、パリスは夢にも思わないだろう。
おわり
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