消去法の末に……

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パリスは選択を迫られた。三柱の中から誰が一番美しいかを選ばなくてはならない。正直な話、三人とも美しいは美しい。どれを選んでも魅力的な「賄賂」がもれなく貰えるためにパリスは悩む。腕組みをし、首を捻り傾げ考える。 パリスは「賄賂」の点から考えることにした。 ヘラの「地上の支配者」だが…… こんな羊飼いが地上を支配してどうするんだ? いきなり「羊飼い」が王様になったところで人心は麻のように乱れるだけだろう。ケダモノの羊数十頭の心もわからずに逃してばかりなのに、ましてやキチンとした意思を持った人をまとめ上げることなんて自分には出来ない。つまり、ヘラの「賄賂」はパリスにとって魅力のないものであった。 アテナの「全ての(いくさ)に勝たせてやろう」だが、パリスは「何と戦えばいいんだ?」と、首を傾げていた。村での喧嘩は一番強い(神の血を持つものに敵う者はそうそういない)羊を守るために狼に勝てる強さが貰えると考えれば魅力的ではあるが、羊が食べられないように羊小屋の錠をしっかり閉じておけばいいだけの話だし、放牧も狼が出ないコースを選べばいいだけのことだ。我が国トロイアには英雄ヘクトール(実は兄)もいるし、難攻不落の城壁もある。こんな羊飼いなんぞを徴兵するまでもないだろう。つまり、パリスにとって「(いくさ)の勝利」はあまり必要がないもので、魅力的と呼べるものではなかった。 つまり、前者二柱は「ない」と言うことだった。消去法の末に決まったのは……
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