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3 告白
■ 1 ■
深夜に携帯電話が鳴った時、タツヤはホテルのベッドで天井を見ながら、テレビを聞いていた。スペイン国内のニュース番組だった。二時間前とまったく同じニュースを繰り返している。誘拐と電車事故と、国同士のいさかいと子猫を助けた心温まるニュース。
電話の相手を確認すると、タツヤは通話ボタンを押した。
スペイン語の「オラ」ではなく英語で「ハロー」と言うと、リコは酔ってるのか?と聞いた。タツヤは不機嫌に「いや」と答えた。
「違約金に不服があったのか?」タツヤは尋ねた。それ以外にリコから連絡があるわけがない。
「違約金なんて振り込んだのか?」
「なんだ、違うのか」
「違約金なんていらないぞ」
「契約書に書いてあっただろ」
「だとしても、俺から契約破棄したのに」
「俺のせいで破棄したんだ。当然だろう」
リコは黙った。いったいいくら振り込まれたんだろう? 明日確認するのが怖いぐらいだ。
「で、何の用だ?」
タツヤは早く電話を切りたがっているようだった。
「あんたが生きてるかと思って」
「生きてるよ。用は済んだか?」
「マコトが会いたいって」
リコが言うと、タツヤは一瞬黙り、それから息をついた。
「嘘だ」
「どうして」リコは声が震えそうになるのを怒りで誤魔化した。
「マコトには連絡先を教えた。あんたを通す必要はもうない」
「何だって?」リコは驚いて絶句した。確かにマコトが会いたいと言っているのは嘘だったが、そういう理由でタツヤにばれるとは思わなかった。
「あんたがマコトに連絡先を教えたのか?」
それは喜ばしいことなのに、リコは気持ちの半分で怒りが湧き上がるのを止められなかった。それはきっと、今まで自分が独占していた恋人を、他の誰かに奪われたような複雑な気持ちだった。間違った気持ちだということは、重々わかっている。でも。
「教えたよ」
リコはタツヤの声を聞きながら、気持ちがざわつくのを止められなかった。この秘密主義の奴が、他の誰かに、連絡先を教えるなんて。悔しさもある。空しさもある。そして、同時に寂しさもあった。
「俺になんか用があるんだろ? 直接会って言いたいことでもあったのか?」
タツヤが少しだけ優しい声になった。「どこに何時に行けばいい?」
リコは素直に答えられなかった。リコが黙っている間、タツヤもじっと待っていた。
「じゃあ、明日十時にジローナで」リコはようやくそう言った。
「OK」
リコはうなずいて電話を切った。タツヤは本当に来てくれるんだろうか?
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