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私はポットに湯を沸かした。他に何もやることはない。
呼び鈴を鳴らされる前に、玄関の方で待機した方が良いかもしれない。アンの様子も気になるとドアの前まで行くと、ノックがしてすぐにドアが開いた。
「ああ、ティアもうここに居たんだね」
レイフ様がいらして、私は応えた。
「はい。準備はアンが全て済ませていました」
「そうだね。昨日の晩にはお願いしておいたから。焼き菓子は今朝だけど」
「お客様はいついらっしゃるのでしょうか? 」
「もう来ているよ」
「では、お出迎えに‥‥‥」
と、サロンの外に出たいと思っても、レイフ様がドアノブを離さないので、その横を通り抜けることができない。
「あの、レイフ様。私は玄関までお客様のお出迎えに行きたいのですが」
「大丈夫」
レイフ様のおっしゃることがよくわからず、私は困惑した。耳がピクピクして目を瞬きさせると、セリス様はにこりと笑った。
「おもてなしは僕がやるから、ティアは座って」
ドアを閉められて、テラスの間口に置かれたテーブルに案内された。レイフ様が私の手を取り、そこまでエスコートするとお客様に用意された椅子に座るように言われた。
「どうぞこちらへ」と紳士な振る舞いで椅子に座らされると、私はレイフ様に訴えた。
「あの、こちらは今日の‥‥‥お見合いのお客様の大切なお席です」
「そうだよ」と言って、レイフ様はティーセットのポットを確認するとハーブティーを淹れ始めた。
「私がやります」
「僕がやると言ったよね? 僕も少しは上手なんだよ? 君の次にね」
毎回このようにお見合いの方にハーブティーを振舞われるのかと思ったらため息が出た。素敵なレイフ様にお茶を注がれて、お見合い相手の方はそれっきりお話が進まないなんて、一体何があったのか。私なら、すぐ夢中になると言うのに。
「久々だから、ちょっと失敗するかも」
そう笑って話すレイフ様に、違和感を覚えて私は黙っていられなくなった。
「レイフ様、お客様は……!! 」
「今日のお客様は、ティアだよ。訪問用のドレス、とても似合っていて素敵だよ。最初に言うべきだったね」
————今日のお客様は、私?
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