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 私なんかが、レイフ様を煩わしていたようでとても申し訳ない気持ちと、とても幸福めいた気持ちでいっぱいになった。 「もう少しお茶を飲んで、そうしたら少しだけ森に散歩に行こう。それから、今日はたくさんケーキを用意しすぎたから、みんなでいただこう」と、レイフ様が言った。  もう一杯ハーブティーを飲むと、気持ちが和らいだ。懐かしかった時間が戻ってきたような気がしてこそばゆく、そしてとても気恥ずかしい。  レイフ様が呼び鈴を鳴らすと、アンがすぐにドアを開けて現れ、まるで呼ばれるのを待っているかのようだった。 「聞いていたかな? 」と、レイフ様も恥ずかしそうにアンに話しかけると、アンは吹き出しそうな笑顔を見せて、「はい。行ってらっしゃいませ。旦那様」と言った。アンのしっぽがブンブンと音が鳴りそうなぐらい振られている。 「後はお願いするよ」と、レイフ様は席を立つと私の手を引いて立たせて「じゃあ、行こう」と言った。 「その前に」……と、レイフ様はキャンディーを一つ取って包みを開けると私の口に入れて、包み紙を私の手に渡した。  アンがそれをみてクスクスと笑い出した。  もしかして、私の木箱を掘り出したのはレイフ様だったのかしら?  腕組みをさせられてレイフ様の顔を見上げると、悪戯っぽい顔をのぞかせて「ティアの宝物は後で返してあげるから」と言われた。  プロポーズが先で、「好き」って言葉を交わしていないと気が付いたのは何日か後になるのだけど、私は夢見るような心地でレイフ様との初めてのデートに出かけた。 end
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