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 その部屋のカーテンを開けると、外は眩しいくらい輝いている。私の耳がパタパタはためく。  私は、空気の入れ替えをしながらオークの木目の美しい机やサイドボード、窓の埃を綺麗にお掃除していた。一息吐いたときにドアが開いて声をかけられ、私のしっぽがピクンと立つ。 「お掃除ありがとう、ティア」 「こんにちは。レイフ様」 「様は、要らないよ。旧くからの友人じゃないか」 「…そういう訳にはいきません」  レイフ様は、このお屋敷のご主人。まだお若いのにご当主となられて、最近まで領地巡りをされていた。  すらっとした背丈に淡いブラウンの髪と青い目がとてもハンサム。私みたいなふさふさの耳としっぽはないけれど、とっても立派に当主のお務めをされている。 「僕は旧い友人だと思っているのに」 「私はただのブラフォード家のメイドに過ぎませんので」  レイフ様とは、旧知の仲だった。私がレイフ様の祖母のマリア様に仕えていた頃は、少し年上のセリス様が避暑に訪れるたび、日が暮れるまで一緒に遊んだ。それは子どものころの話。今は、マリア様が亡くなられ身寄りのない私は、ブラフォード家にメイドの一人として住み込みで雇われている。  立場が違うのに親しくされるのが居た堪れず、私はレイフ様のいらっしゃらない時間にこの部屋の掃除をさせていただいている。それでも時々出くわしてしまう。  友人の一人に数える私の硬い態度に、いつも困った顔を繰り返すレイフ様は決まって私の大好きなキャンディーを下さる。 「ティア、どうぞ」 「……ありがとうございます」  昔、レイフ様はマリア様のお屋敷に訪れる時いつもこのキャンディーをお土産にされていた。懐かしく私の大好きな味。大事にポケットに入れた。  レイフ様の手のひらに数個乗せられたキャンディーを一つだけ貰うと、それを少し寂しそうに微笑まれてしまう。流石に「一つだけ? 全部要らないの? 」と言われるのは無くなった。もう子どもではないのだから。 「今でも好きなんだね」と、私の隠せないしっぽがご機嫌に揺れているのをみてレイフ様は笑った。  嘘がつけない私の耳としっぽを見てレイフ様は満足したようで、ホッとした私はその部屋を出た。
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