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 一日の仕事を終えて部屋に戻った私は、キャンディーの包み紙をしまっている木箱にリーレンに押し付けられた『惚れ薬』を封印した。  そして何度目かのお見合いが行われ、レイフ様はその度に庭園と裏庭の薬草畑を案内する。 「私も薬草に興味があるんですよ。当家の温室で少しだけ栽培しています」 「そうですか。素晴らしいですね」  今日のご令嬢は今までと違って、随分と熱心にレイフ様と薬草のお話をされるので、レイフ様はとても嬉しそうだった。マリア様の思い出話をご熱心に聞かれるご令嬢は、レイフ様に相応しい方に見えた。ドレスもとてもエレガントで知的な佇まいの方だった。 「お決まりになるかも知れないね」 「‥‥‥」  アンが私の目を食い入るように見ると私は返す言葉もなくて、私は二つの選択肢からどちらかを選ばないとという気持ちになった。  一つは、ハンスのお嫁さんになって町に住むか  一つは、マリア様と暮らした村に帰るか  ハンスと結婚したら、耳としっぽの黒い可愛い子どもに恵まれるかもしれないと想像しながら、でも町に住んでレイフ様をお見掛けするなんてことがあったら耐えられないかもしれない。せっかく幸せになっても切なくて悲しくてつらいかも。  それはハンスの気持ちを裏切るようで怖い。  村に帰れば、身寄りは無くても知り合いはたくさんいる。住み込みの仕事を貰えるかもしれない。今よりも貧しくても構わない。でも、このお屋敷の薬草畑ともお別れになる。アンやリーレン、ハンスとも……。  薬草畑は……先日のご令嬢が奥様になられるなら、私の代わりに大事にしてくださるかもしれない。  私はキャンディーの包み紙と薬の入った木箱を持って、深夜裏庭に行った。薬草畑のすぐ近くにある生垣の根本を掘って、その穴に木箱を入れると涙が出た。 「気持ちの整理が出来るまで宝物は封印……」 「ハンスはとてもハンサムいい人なんだけど。どうして恋する気持ちになれないのかしら。私が悪いのかもしれない。そんな悪い私がここにいたらだめ」  木箱に土を被せながら涙が頬を伝って流れた。誰もいない虫の音が聞こえるだけの夜空の下で、声を抑えながら私は泣いた。
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