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レイフ様のお部屋にハーブティーをセットしてお淹れする。部屋中にミントの香りが漂って、外は雨で濡れそぼり暗いのにとてもすっきりと和やかな空気になる。
「ティアの分も淹れて、ここに座って」
「はい」
ハーブティーをレイフ様の前に置いて、私もレイフ様のそばの椅子に座った。二人っきりの部屋でとても緊張して胸がドキドキする。
「とても美味しい。やっぱりハーブティーはティアが淹れるのが一番だね」
本当に美味しそうに召し上がった。
「裏庭に薬草用の温室を作ろうかと思っているんだけど。ティアはどう思う? 」
「とても素晴らしいと思います」
どんな温室だろうと思って私の耳としっぽがピンと反応した。
「嬉しいんだ」と、私の反応にレイフ様が喜んだ。
しまったと思って、慌てた私の耳はギュッと後ろに向けられて、レイフ様の顔が曇る。
「ハンスが君のために作るというから‥‥‥そうか、ずっと欲しいと思っていたんだなと思って。おばあ様の屋敷にはあったのに‥‥‥」
ハンスとの会話を聞いていたのかと私はびっくりして耳が前に向くと、レイフ様は目を細めた。
「温室は誰が管理されるのでしょうか」
「ティアに頼もうと思っているんだけど。当家でそれが務まるのは君しかいないし」
温室は先日のご令嬢のために作られるのかもしれない。その方とご結婚されて、私はその方に仕えるのだろうかと思って、心が震えた。
「とてもありがたいお言葉なのですが、近いうちに私はお屋敷からお暇させていただきたいと考えています」
レイフ様は私の言葉に悲しい顔をして、「この屋敷を出ていく? 」と私の顔を覗き込んだ。
「ハンスと結婚するのか? 」
やっぱり聞かれていたんだ。でも、私はハンスとは結婚しない。
「いえ。マリア様のお住みになっていた村で暮らそうかと思っています」
「ティア‥‥‥」
そんなにこの屋敷が嫌なのかと聞かれて大きく首を振った。
「このお屋敷の方々はとても優しくて、アンとも仲良くさせていただいています。でも、私はマリア様と暮らした村に戻りたいんです」
「あそこに君の身寄りはいないだろう? 」
「住み込みで仕事があるか伝手はあると思いますので」
「‥‥‥何かが決まっているわけではないんだね」
レイフ様がご結婚されてこのお屋敷に奥様を迎えられるのが辛いからとはとても言えない。
「お話しできるのはここまでです。申し訳ありません」
そう言って私はレイフ様が飲み終えたティーカップを下げようとすると、「僕が片づけるから、お代わりをもらっていいかな」とレイフ様がおっしゃるので、新しいハーブティーを淹れ直してお渡しした。
「失礼します」と、レイフ様の部屋を出て自分の部屋に戻ると、私は泣きながら自分の僅かな家財の整頓を始めた。仕事の合間に少しずつ。
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