逞しき、普通の人々~パートママが見た格差の縮図~

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 友達が多いのはいい事だし、遊びに来るのが龍之介くん個人の友達だけなら、なんら心配はいらない。相手の名前も住所もわかっているし、保護者とも顔見知りだ。友達の親と、きちんと連絡を取るようにすれば、トラブルはある程度まで押さえられるだろう。  だが、相手がどこの誰ともはっきりしないのは、とても心配である。誰が遊びに来たのか龍之介くんに聞いても、二、三人の名前しか教えてくれない。どうも、友達の友達とか、友達のお兄さんとか、龍之介くん自身もよく知らない子が、遊びに来ているらしいのだ。  難しい問題である。簡単に答えが出せるものでもない。 「お母さんが選んだ子でなきゃ、部屋に上げちゃダメ」  なんて、まさか言えたもんではない。かといって放任すれば、遠からず問題が起きるに決まっている。親のいない部屋で、タバコやお酒、麻薬、不純異性交遊などが行われるかもしれない。怪我や火事なども心配だ。「子供を信じてあげて」などキレイごとを言う母親もいるが「信じる」は「ウチの子に限って」と同義であり、それこそ信じるべきではない。人間はみんな弱いものなのだ。我が子をそこまで信じるのは危険である。  悩んだ挙句、小林さんは子供から鍵を取り上げる事にした。学校から帰ったら、玄関のドアノブにランドセルを掛け、代わりにオヤツと水筒入りのリュックを取る。外で遊びなさいという訳である。雨の日や、トイレに行きたくなった場合は、近所の図書館や学習センターに行けばよい。これでこの問題は一応の解決を見た。だが、子育てにホッとする暇などない。もっと大きな問題が、働く親にとっての魔の期間、そう、夏休みにやってきたのである。  共働き家庭の子供は、平常より夏休み中の方が「一人」の時間が増えることが多い。学校のある日の場合は、子供は一日中、誰かと接している。朝八時から三時くらいまでは学校で先生やクラスメイトと、放課後は友達と二時間ばかり、五時に帰宅したら夕飯、風呂、就寝まで家族と過ごす。一人の時間はほとんど無い。
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