紙飛行機

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紙飛行機

紙飛行機 退屈だ。白い壁、白いシーツ、それに負けないくらい白い僕。もういっそ、この白い闇に溶けてしまえたらよかったのに。視界を埋め尽くすやけに清潔な白は、決して僕を守る色ではない。自由を塗り潰す色なのだ。 この病室は特別製だった。世間とは隔離された場所。世の果てだ。寝ても覚めても悪い夢だ。穏やかな春の日差しも、桜の香りもこの部屋には届かない。最初は閉鎖された異様な空間を楽しんでいたけれど、今はもう飽きてしまった。けれども、君は飽きもせず此処に来る。桜色の頰をした君。不器用で、馬鹿で、無駄にポジティブな君。 今日も君はやって来た。君の頬と同じ色をした一枚の折り紙を持って。 なぜ折り紙を持って来たのかと尋ねると、紙飛行機を折りたいから教えてくれと言われた。自分で持って来たくせにつくり方もわからないのか。僕は呆れた。不器用な君に折り紙を教えるのは大変なんだ。自分で折った方がましだ。でも、それを言ったら君は悲しむから言ったりはしない。別に君が大切だからじゃない、泣かれたら面倒だからだ。 仕方がないから教えてやった。本当に大変だった。不器用なくせにやけに丁寧に折ろうとするし、手伝おうとしたら嫌がるし。完成した紙飛行機は、君が作った割には綺麗だった。けれどもやっぱり少し傾いていて、皺もあった。愛嬌のあるそれを両の手のひらに乗せ、君は満足げに微笑んだ。それから君はただ一言、あげると言った。驚いた。まだ幼い君のことだ、なんとなく紙飛行機を作りたくなって、ここで遊ぼうとしていただけだと思っていたのだ。 「この飛行機で貴方の好きなところにいこう。何処でもいいから、一緒にいこう」 あの時君は笑っていたけれど、本当は泣いていたのかもしれないね。馬鹿だな、そんな玩具じゃ何処にも行けないよ。けれども、悪くはないと思った。桜色の可愛らしい紙飛行機。枕元に置いて眠れば、君と旅行する夢くらいなら見られるかもしれない。 了
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