お父さんの種

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 翌朝。  夜のうちに置いておいた通販の段ボール箱の中に、猫がいた。 「ほらね。簡単でしょう」  母はそう言いながら、ホームセンターで買ってきた猫用の毛取りブラシで無造作にブラッシングをはじめた。猫も逃げもせずされるに任せている。  しかし箱の中の猫は昨日の三毛猫でなく、縞の入った黒っぽい猫なのだがかまわないのだろうか。これもヌッコリョッケなのだろうか。  体毛は一匹からこれでもかというくらいの量がとれた。ママはそれを淡々とビニール袋に入れた。 「何ぼーっと見てんの。早く種を植えてしまいなさい」  僕は言われるがままに移植ごてで土を掘り、種を植えた。  その間にママは水を入れたコップを持ってきて、ビニール袋から毛をつまんでコップの中に落とした。  そしておもむろに、植えたばかりの土の上にばしゃりとコップの水をひっかけた。 「じゃああたし、また寝るから」  ママは大きくあくびをすると、さっさと部屋に戻ってしまった。  あんな適当かつ乱暴な水遣りで大丈夫なのだろうか。不安に駆られたけれど、僕も小学校に行く支度をしなきゃならない。
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