見えない何か。

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「心配しなくてもそれはないよ?あのアパート、建ってから四年目なんだ。つまり最初から俺はあそこに住んでる。あの部屋は君で三人目。最初は男性で結構、俺も仲が良かったんだよ。彼女が出来て同棲するからって広いとこに引っ越した。何処かまでは聞いてないけどね?元気で幸せそうに出て行ったよ。その後が女の子。河田さんの前の人ね。結婚決まったとかで、これも幸せそうに引っ越してったよ?事故物件なんて考えすぎだよ。」 ははっ…と笑い、真下はアイスコーヒーを飲んだ。 目の前の河田がほぉ…とため息を吐いて、それでもテーブルの上で握られた両手が小さく震えているので、気になって訊き返した。 「どうかした?何かあったの?今までドア開けて会う事もなかったし、あそこで会ったのも何かの縁だし、話して楽になるかもしれない。話位聞くよ?奢ってもらったし?」 (話しても信じてもらえない。証拠もないし、それにどう説明していいか…。) 見えない何かに背中を押された、そんな話を誰が信じるだろう。 雪絵自身、何かの間違いではないかと思いたいし、鏡を見るまではそう思っていたのだ。 「いいえ、違うならいいんです。あ、大学行きます。お会計していきますのでごゆっくり。ありがとうございました。」 「河田さん?本当に大丈夫?」 席を立つとそう聞かれた。 「はい。」 「また何かあったら、話して聞くからね?いつでもお気軽にどうぞ。」 「ありがとうございます。失礼します。」 お会計を済ませ店を出た。 事故物件ではない。 前の人もその前の人も元気に幸せそうに引っ越したと聞いて、少し胸を撫で下ろした。 (やっぱり……気のせい?疲れてたのかな?長時間立ちっぱなしで働いたから…。少し、バイトの時間減らそうかな。) 疲れていたんだ、そう思う事にした。
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