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大学二年
誕生日のその出来事は忘れることは出来ず、ただ、初めてお酒を飲み酔っていたのでは、と相談した友人にも言われた。
「逃げてって、他の言葉と間違えたのかもよ?」
けらけら笑われて言われると、そんな気もして来る。
「あんまり考え込まない方がいいよ?それからは何もないんでしょう?」
聞かれて頷く。
そう、その誕生日の電話以来、何もない。
季節は12月になったが、部屋の前で鞄から鍵を出しても、ファスナーを開けた小さな内ポケットの中に鍵はちゃんとあるし、あの番号からの電話も鳴らない。
いつしか雪絵は少しずつ警戒をしなくなり、平穏な日常が戻った。
二月になり、バイトに出ようとした日曜日。
部屋を出ると、声を掛けられた。
「すみません〜。後ろ通ります。ごめんなさい。」
二人組の男性が大きな家電を運んでいた。
(引っ越し?)
左隣の部屋で奥だから覗きに行くわけにも行かなくて、気にしながら階段に向かうと、そこで引っ越し業者の男性とすれ違う。
階段を降りて、停められているトラックを見た。
乗せられている荷物は華やかな感じで、女性だと思った。
(まさか何かあったのかな?私が何もなくなったから、隣に?だから引っ越し?)
「なぁに考えてるの?」
「っひっ!!」
「……なんて声出すの?俺、真下!」
肩を叩かれてビクッとして引いた声を出して振り向くと、右隣の住人、真下がいた。
「また変な事考えてた?」
と聞かれて、真下には相談した事もあるので、考えた事を素直に話した。
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