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二ヶ月が経ち、慣れて来た頃、それでもアパートの住人との接点はなかった。
人が住んでいる音はするし、廊下で先に歩かれる姿を見かけたり、ゴミ置き場や自転車置き場で姿を見る事もあるが、誰がどの部屋かは分からない。
姿を見掛ければ会釈をし、近ければ挨拶をする。
殆どは会釈だけをして時間がないという風情で出掛ける人が多い。
会釈をしてくれるだけマシで、スルーもある。
(まぁ…向こうからしたら何あの女、って警戒もあるだろうしね?今時だし…。)
と考えて、いきなり怒鳴られたりいちゃもんを付けられなければ素知らぬ顔で良いと思っていた。
その日もファミレスのバイトを終えて21時半頃、部屋の前で鞄から鍵を出そうと奮闘していた。
廊下の電気が一つ切れた様で、薄暗かった。
部屋の外電気は点けて出掛けてはいなかったのだ。
(帰りが遅くなる時は勿体無いけど電気つけて行こう。)
そう考えながら外は雨の中、鞄の中の鍵を探す。
いつもならある小さなファスナー付きの場所に鍵がない。
「あれ?」
探しているとバイブの音がした。
「ええ、もう、何?…あ、鍵!」
部屋の前とは言え薄暗い場所で、一人で立っていたくない。
早く部屋に入りたいから、電話より鍵を優先させた。
無事に玄関を開けて部屋に入り、すぐに鍵を掛ける。
下駄箱の缶の中に、玄関の鍵を入れてヒールを脱ぐ。
キッチンで手洗いうがいをして、冷蔵庫から水を出し、直接飲みながら部屋に入る。
小さなテーブルに2リットルのペットボトルを置いて、鞄を置き、座ってスマホを取り出した。
見ながらテレビを付けに行く。
小さな音でテレビが部屋を賑やかにしてくれる。
スマホには着信の文字。
「誰?お母さん?」
スクロールして着信履歴を見た。
目を疑う。
「何これ?………………何か、操作間違いしたかな?」
変なとこでも鍵を探す時に触ったのかも知れないと考えて気に留めなかった。
スマホをいつもの位置、ベッドの頭の上のボードに置いた。
着信履歴には電話番号のみ表示。
つまりは登録していない相手。
その番号は自分のスマホの番号だった。
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