見えない何か。

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見えない何か。

バイトを終えて、最近のお約束。 アパートの階段を上る前に鞄から鍵を取り出した。 右手に落とさない様にぎゅっと強く握りしめて、階段を上る。 スマートに最短で鍵を開けられる様になってから、電話は鳴ってない。 やはり鍵を探す時に何かを弄ったんだと思って安堵していた。 いつもと同じ、スマートに鍵を鍵穴に差し込む。 「……あれ?」 鍵を持っている手が震えて、鍵穴に鍵が入らない。 カチカチと鍵が鍵穴の金属に当たる音がする。 「ちょっと、なんで?」 左手で右手の手首を持つ。 それでも震えが止まらない。 仕方なく鍵を左手に持ち直す。 鍵穴に入った……と思った瞬間、背中を押される感触がした。 背中がドアに押し付けられた感じのまま、少し振り返る。 そこに誰かいても怖いが、誰もいないからもっと怖い。 間違いなく、誰もいない……のに押し付けられていた。
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