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夜になると、つぼみ姫は夜空に輝く月のやわらかな光に照らされて、かたいつぼみを星のようにきらめかせながら、ドニおじいさんの言ったことを考えていました。じっと物思いに耽るつぼみ姫の美しさには、夜空で瞬くほんとうの星たちさえ、うっとりと見とれてしまうほどでした。庭園の他の花たちは、つぼみでありながら誰よりも美しいつぼみ姫に嫉妬して、激しい言葉を投げつけました。
「今日もあなたは咲かなかったわね。花は花開いてこそ美しいもの。けれど、あなたはずっとつぼみのままなんてね」
「ほんとうにつまらない花だこと!」
「そもそも、あなたは花じゃないのかもしれないわよ」
「そうよ、あなたはきっと落ちこぼれの花なのよ」
花たちが意地悪に笑いさざめく声を聞いて、つぼみ姫は言い返さずにはいられませんでした。
「でも、ドニおじいさんは、わたしがいつかきっと花開くと言っていたわ」
「ふん、ドニと言えば、あんたドニにわたし達のことを告げ口していたわね」
「告げ口?」
つぼみ姫は驚いて聞き返しました。
「わたし達はあんたをあわれんでやっているのに、まるであんたに意地悪をしているみたいな言い方をしていたじゃないの」
「わたしそんなつもりじゃ……」
つぼみ姫の声を遮って、花の一本が脅すように言いました。
「もしもドニが勘違いをしてわたし達の世話をしなくなったら、あんたいったいどうしてくれるのよ。そんなことになったら、ただじゃおかないから」
つぼみ姫は恐ろしくなって、茎を折り曲げて体をふるわせました。そんなつぼみ姫を見て、花たちはいい気味だと言うように嗤いました。
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