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a2ad13c4-f7a0-406f-a2b1-2d2c5a68b4bb   世界の西の西の果ての国には、この世の美しい花々のすべてが集められた庭園がありました。その庭園は国の王さまによって、手厚く保護されていました。というのも、その庭園にはあるとき王さまが偶然に見つけた、不思議に輝く美しい花のつぼみがあったからです。  その花は光の加減によって、いろいろな色をあらわすクリスタルのように光り輝きました。朝には東の空からのぼる日の光を浴びて黄金色にきらめき、昼には周囲の花々や庭園を訪れる蝶の翅を映して白や青やピンクや緑に染まり、夜には月の光に照らされて濃い紫や銀の色に光るのでした。  その花は世界にたった一本きりしかありませんでした。世界じゅうのどんな宝物よりも貴重な花で、王さまはこの花を神秘の花と呼んで庭園のいちばん奥に植えさせると、つぼみが開くときを今や遅しと待っているのでした。  この美しい花は、世界に生れ落ちた瞬間からずっと、もう長いことつぼみのままでした。どんなにおひさまに照らされても、どんなに雨に打たれても、どんなに星が語りかけても、花はそのきらめく花びらを固くぎゅっと閉じて、つぼみのままでいるのでした。それでもやっぱり、その花はとても美しいのでした。
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