2.選ばなかった側の話

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 目覚めた時、部屋はまだ薄暗かった。  枕元のデジタル時計に目を向ける。  時刻は午前五時前。暗いわけだ。  隣で眠る、彼の顔を見る。父とよく似た、その顔を。  彼は幸せそうな顔で、よく眠っていた。自分が罪に堕とされたとも知らずに。  彼には、今日はだと伝えていた。でも、それは嘘だ。    父は、草葉の陰から私を見ていたりはしないだろう。  なにしろ私は、選ばれなかった子供なのだから。生きていた時ですら、父は私のことなんて見てはいなかったのだから。  でも、選んだ方の子供である彼のことは、どこかから見ているかもしれない。  父は苦しむだろうか。自分が選んだ自分の息子が、選ばなかった自分の娘によって罪に堕とされたと知ったら。  彼は苦しむだろうか。自分が抱いた女が、腹違いとはいえ実の姉だと知ったら。その姉との間に、子供ができてしまったら。  でも私は、べつに復讐をしたかったわけじゃない。    私は、隣で眠る彼の頭をそっと撫でる。  あなたさえ生まれなければ、私の人生はもっと違っていた。  あなたの存在が、私の人生を変えてしまった。  だから、他の誰でもないあなたの人生だけは、私が変えてしまっても許されるはず。私の人生に巻き込んで、私と同じ罪人になってもらうことも赦されるはず。  そう考えなければ、私はもう誰ともいっしょに生きられないのだ。    父は、私といっしょに暮らすことを選ばなかった。私を迎えに来てはくれなかった。  母は、私といっしょに逝くことを選ばなかった。私を置いて、一人で死んでしまった。  何も知らない、憐れで可愛い、私の弟。  せめてあなただけは、私といっしょに堕ちて欲しい。
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