1.選ばれた側の話

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 結果から言うと、俺と卯月さんは晴れて恋人となった。  正直なところ、告白すると決めた時、俺はほとんどダメ元のつもりでいた。  俺だけでなく天川さんも卯月さんに好意を寄せていたことは、卯月さんの方でも恐らく気づいていたはずで、そんな状況であえて俺を選ぶ理由が思いつかなかったからだ。  なにしろ、俺と天川さんを比較して、俺が勝っている部分なんてほとんど無い。顔も頭も身長も天川さんの方が上だし、話していて楽しいのも彼の方だろう。  あえて言うなら、天川さんの浮気性と俺の実家の財力だけが俺の方にプラスとなるポイントだが、どちらも卯月さんが知る情報ではない。  それにも関わらず、彼女は俺の方を選んでくれたのだ。 俺と卯月さんがつきあうことになったと聞かされた時、天川さんは一瞬、ゾッとするほど冷たい目で俺を見た。彼にとっては大勢いる女の一人に過ぎなかったはずだが、それでも自分ではなく他の男――それも、どこが自分に勝っているのか分からない男――が選ばれたことには、やはりプライドを傷つけられたのだろう。  しかしそのあたりはさすがというべきか、次の瞬間にはその表情はもういつもの爽やかな笑顔に戻り、まるで最初から卯月さんを狙ってなどいなかったかのように俺達を祝福した。それからしばらくして、天川さんはこの店のバイトを辞めた。    卯月さんとの初デートでは、映画を見に行った。  俺と卯月さんが親しくなるきっかけとなった映画の続編だった。  映画館の前に貼ってあるそのポスターを見た時、俺は、なぜ自分が初対面の時にあれほど卯月さんに惹きつけられたのかが分かった気がした。  彼女は髪型や服装、話し方など、全体的な雰囲気が、俺の好きなその映画の主演女優によく似ていたのだ。  それに気づいて、俺は苦笑した。  なんだ、やっぱり一目惚れなんてものはくだらないな、とも思った。  でも、そんなことはもうどうでも良いのだ。  その時の俺はもう、外見に基づく一目惚れなんかではなく、卯月さんのことをよく知った上で彼女を愛していたからだ。  もし卯月さんが初対面の時、全然違う髪型と服装をしていたら、俺が彼女を好きになることはなかっただろうか?  そんなことはない。  今の俺は、確信をもってそう言うことができた。
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