3人が本棚に入れています
本棚に追加
目覚めた時、部屋はまだ薄暗かった。
枕元のデジタル時計に目を向ける。
時刻は午前五時前。暗いわけだ。
隣で眠る、彼の顔を見る。父とよく似た、その顔を。
彼は幸せそうな顔で、よく眠っていた。自分が罪に堕とされたとも知らずに。
彼には、今日は大丈夫な日だと伝えていた。でも、それは嘘だ。
父は、草葉の陰から私を見ていたりはしないだろう。
なにしろ私は、選ばれなかった子供なのだから。生きていた時ですら、父は私のことなんて見てはいなかったのだから。
でも、選んだ方の子供である彼のことは、どこかから見ているかもしれない。
父は苦しむだろうか。自分が選んだ自分の息子が、選ばなかった自分の娘によって罪に堕とされたと知ったら。
彼は苦しむだろうか。自分が抱いた女が、腹違いとはいえ実の姉だと知ったら。その姉との間に、子供ができてしまったら。
でも私は、べつに復讐をしたかったわけじゃない。
私は、隣で眠る彼の頭をそっと撫でる。
あなたさえ生まれなければ、私の人生はもっと違っていた。
あなたの存在が、私の人生を変えてしまった。
だから、他の誰でもないあなたの人生だけは、私が変えてしまっても許されるはず。私の人生に巻き込んで、私と同じ罪人になってもらうことも赦されるはず。
そう考えなければ、私はもう誰ともいっしょに生きられないのだ。
父は、私といっしょに暮らすことを選ばなかった。私を迎えに来てはくれなかった。
母は、私といっしょに逝くことを選ばなかった。私を置いて、一人で死んでしまった。
何も知らない、憐れで可愛い、私の弟。
せめてあなただけは、私といっしょに堕ちて欲しい。
最初のコメントを投稿しよう!