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おれがあっけにとられていると、有江さんはマイキーを胸のあたりで抱きしめたまま、にこりとほほ笑んだ。
「巻き込んじゃってごめんなさい。本当に、ありがとうございました!」
「あ、いや、おれ、なんもしてないし……」
慌てて言う。本当に、なにもしていない。それでも有江さんは、ふるふると、首を横に振った。
「いいえ。わたし、マイキーのこと失くしたと思ってパニックになっていたとき、ふと、あなたのことが目に付いたんです。
いろいろ探し回って、何回お城を通っても、ずっとなぜか色んな人の写真を撮り続けてるあなたに。
そのうち、ちょっと落ち着いてきて。あなたのせいで、冷静になれたんです。
その上、話まできいてくださって……本当に、ありがとうございました!」
そう言って、彼女は満面の笑みでおれに微笑みかける。
……あれ?
これは、その……、やっぱり、もしかして、ひょっとして……?
そんなことをおもっていると、彼女は、ふいにちょっと顔を赤らめる。
「……それで、よかったら、あの……。
お礼に、このあとご飯とか、いかがですか……?」
な、な、な……なんですと!?
目の前でもじもじとする彼女。恥ずかしそうに、マイキーの人形で、少しだけ顔を隠している。
これは、きた。本当にきた。あぁ神様、これはやっぱり、そういうことなんですか。
「はい」という返事が、喉元まで出かかっていた。
……でも、その瞬間よぎったのは、やっぱり、光希の顔だった。
「……ごめん!
他の女の子と一緒にいると、彼女に、怒られちゃうから」
「じゃあ、気を付けてね!」。そう言って、おれは彼女のもとから走り出す。
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