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ドッペルゲンガー、星、何か
カラオケでも行くかな、と思った。高校生になったにもかかわらず、一度も一人カラオケをしたことがないのに気付いたのだ。古臭いカラオケに入ろうとしたところで、エントランスに誰かがいるのに気がついて足を止めた。
「う、わ」
「え」
「なんだし、ウチが一番の新入りだったのにもうそうじゃないんか。気まぐれな奴め」
「え、いや、その」
ドッペルゲンガー、二人目だ。
「ここいいとこだよー、歌い放題だし、採点いいし。中三でも店員いないからこれるし。また来るわー」
彼女は手をひらひらさせて去ろうとする。
「ストップ」
ぐい、と腕を掴む。こっちのドッペルゲンガーなら、なんとなく許せる気がした。許せるってなんだ、じゃああっちは許せないのか、いやそういう感じじゃなくて虫唾が走るとでも言えばいいか、もっとひでえじゃん、とにかくこっちならなんとなくいいんだよ、と一人でうだうだ考える。
「何。言いたいことはなんとなくわかるけど」
「……うん。言ったらアンタがなんて答えるかもなんとなくわかる」
「あっそう。じゃあよくない?」
「いやよくない」
「はは、知ってる。一つ教えるよ。ここには坂口香乃が何人もいる。じゃ、あとは頑張れ」
頑張れ、の前は何も言っていないのに“せいぜい”、と聞こえた気がするあたり、これもやはり“自分”らしい。にしても何人も自分、坂口香乃がいるとはどういうことだ。カラオケに行く気にもなれず、家に帰った。何かを食べようとも思わない。眠りたいとも思わない。風呂には入った。外に椅子を持ち出して座り、星を数えた。一京を超えた時、もうすでに真夜中はとっくに過ぎていた。当たり前だ。外に出た時からもう過ぎていたのだから。
今この世界に少なくとも三人の坂口香乃がいる。そして管理人が絶対的力でここを管理している。孤島。どこもぐるっと伸びているのは青い水平線だった。大体はオレ好み。大切にされている自分もいれば、ひどく嫌われてオレなら絶対に嫌な環境に置かれた自分もいる。みんなが大きな力で養われているものの、オレが目にした人はあと二人の自分だけだ。他にもいるということだが、坂口香乃以外の人間は見ていない。一人目は幼く見える。まるで中一の頃の自分だ。二人目は中三と言っていた。そしてオレは高一。ついでに言うと一人称も違う。私、ウチ、オレ。
最初からなんとなく、薄々、わかっていたけれど。この世界は、きっと。
結論はもう心の中に出来上がっているのに。それを認めるのがなんとなく怖かった。まるで、いつかの“恋”のように。結論をつけるのはもっと証拠を集めてからでもいいだろう。
陽が昇るのをこの目で見るのはいつぶりだろう。遅くに寝たにもかかわらず、やたら早く目が覚めた修学旅行以来か。椅子を持って家に戻った。何かを食べたいとは思わない。オレが今求めているのは……到底言葉にはし得ない、何かだ。
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