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連行、体力テスト、ファミレス
「で? 突然カラオケに連行されてきたんだけどどういうこと?」
「いやオレに聞かれてもね。アムカに聞いてよ。オレだっていきなりだったんだし」
「私小学生だけどいいの?」
「別にいいでしょ。だって成人した人もいるわけだし」
「俺に振らないでくれる? つか何なのこれ、カオスなの?」
そうか、ねーちゃんは大集合を見るのはこれが初なのか。カオスで何の間違いもない。
「お待たせ」
「は? 何これ、ちょっとアンタ、ここに大集合しちゃってんじゃん、なんなのさ」
アムカが乙女を連行してきた。一体何をするつもりだ。
「一回人を連行してみたかったから、これでやりたいことまた一つ消化されたわ」
「なにそれ、そのためだけ?」
「まさか。そんな無意味なことすると思う?」
いや人を連行してみたいとか言っている奴だぞ、思うわ。と言いたくなったが、確かに人を連行するのは一度やってみたいし、一応自分のことなので言わずに置いた。
「歌おうぜ。誰が一番上手いか」
そんなの言われずともわかる。が、きっとこれは親睦会なのだとわかったので、黙って曲を入れた。
「ねえ、これどうやって曲入れるの?」
小四に教えているうちに、自分の曲が流れ始めてしまった、と思ったら、意外にもそれを入れたのはねーちゃんだった。
「何、被ったの? まぁ、直接対決的な?」
「え、やだ変えようかな」
「そう言いなさんな」
違う曲にすればよかった、とも思うが、自分の好きな曲だ、気にしないことにしよう。結局変えずにそのまま歌って……当然のように、点数はボロ負けだった。
「はんっ、まだまだだな!」
「るっせ!」
小四はまだまだ下手だし、ギャルもどきが歌う曲は合唱曲ばかりだし、オトモダチは謎にドヤっている。たいしてうまくもないくせに。乙女は無理に流行りの(だった)曲を歌おうとして音を外しまくる。アムカはまあ、前に一緒に行った時の通りだ。ねーちゃんは上手くなっているのに、「小方に勝てねぇ」と言っている。オレはいつまでたっても小方に勝てないらしい。運動はオレが勝っていたが。そう言うと、ねーちゃんは、
「五十歩百歩だろ」
と言う。
「そうだけど、オレが百歩の方でしょ」
「どうだか。体力テストの反復横とび? 点数同じじゃなかったっけ?」
「違うし。オレが十点満点で、小方は九点ですーう」
「同じようなもんじゃん」
「いつまでたっても私は反復横跳びしかできないのか……」
「体力テストかー、シャトルラン嫌いだなあー」
「ああ大丈夫、そのうちシャトルランで八点取れるようになるから」
「まぁ中三で七点に落ちたけど?」
「なんでさ!」
結局体力テストと言う懐かしくも少し嫌なワードで盛り上がってしまった。アムカの思惑通りなのか何なのか知らないが、雰囲気は和んだのだと思う。ぎゃあぎゃあくっちゃべって、すっかり喉が渇いた頃。本当は乾かないはずなのに、しゃべり続けると喉は乾くものだ、という固定概念によく似た一種の願望が、それぞれに、この世界に、働きかけて、誰からともなく喉が渇いたと言い出した。その流れで、じゃあ飯食おうぜ、となり。本当はここで生きるのに食事なんて必要ないと言うのに、それでもオレたちはどやどやとレストランに行って。ねーちゃんはビールを飲んで。オレとアムカはノンアルを飲んで。他はジュースを飲んで。またくだらない話をして笑った。同じ顔の奴らばっかり、他に人はいない。こんな不気味な世界は、それでもどこか暖かかった。暖かくなった。オレたちは所詮他人で、それでも同じ坂口香乃で。そしてゴミとして捨てられたものの寄せ集めだ。
レストランから出て、みんなと別れ。オレは少しの肌寒さを感じながら、空を見上げて隣を歩くアムカに尋ねた。
「今回のは意図してみんなを集めたんですか?」
「……さぁ?」
こんなところもアムカは、オレは、昂希に似ている。
「別に誰がうまいのか知りたかっただけだし」
今度は、ああ、オレらしいな、と思った。
「まぁ、うん、どうもね」
オレはやっぱり、感謝するのが下手のようだ。
「なんなの、感謝されるような事してないんですけど」
それから二人で、はは、と笑った。
だって、本当は何も変わっていないから。それぞれのこの島への思いも変わらないし、成長したわけでもない。オレたちがゴミ箱の中のゴミであることに変わりはない。オトモダチがもう、以前のようには笑わないと言うことも。それでも何かがどうにかなったのだ。
割り切る、と言うのは、オレが考えたどれでもなかったのかもしれない。確かに一種の諦めで、理解だけど。割り切った。確かにその言葉も当てはまる。それでも、割ったのでも切ったのでもなく。ただ、受け入れた。受け入れようとした。受け入れていることにしている。
どうしてアムカが今日みんなを集めたのか。そうしようと思えたのか。行動できたのか。オレの持つ昔の自分についての記憶が正しければ、ただそうしてみたかったのだろう。
『誰がうまいのか知りたかっただけだし』
その言葉にもきっと、少しの本音があったに違いない。オレは孤独を選んだ気になっていたけど、友達とワイワイカラオケに行ったり、ファミレスに行ったり、そんなことをしてみたかったのだから。仲をひっそり取り持つことも。
少し寒いが風は心地良かった。オトモダチの愛想笑いが帰って以来初めて、今夜は眠ろうかと思えた。
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