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愛想笑い、友達、人間不信
ギャルと同じ頃に来た人で、明るかった頃の自分がもう一人いた。周りは『オトモダチ』と呼んでいるらしい。きっと嫌味なのだろうが。オレもそう呼ぶことにした。そのオトモダチにも会いに行ってみた。彼女が少し良さげなアパートに住んでいるところを見ると、そこまで大切にされているわけではなくとも、一概に嫌うこともできないらしい。
「ここの仕組みはわかってるんだけど、私が捨てられたっていうのがいまいち解せなくってね」
彼女はそう言って困ったように微笑んだ。
「変なこと聞くけど、中一の時のクラスの中で友達って何人いた?」
「え? 多いけど、友達じゃない人は七人くらいじゃない?」
ここだ。決定的な違いは、ここなのだ。七人ですら多いのだ。オレが今振り返ると、中一の時のクラスにいた友達は一人くらいだと思う。確かに絶対友達ではないのは七人くらいだ。それじゃあ残りの二十六人みんなが友達だったか? オトモダチの答えはきっとYesだろう。でも決してそうではない。友達だと本当に信じられたのは一人もいたかどうか。オトモダチは友達ではないとはっきり言える人、それ以外を友達として信じられる。そして愛想笑いをよくする。
捨てられたのは、人を信じる気持ち、愛想笑い。
彼女が捨てられたことを解せないのはある意味当たり前だ。彼女にとって人を信じること、笑顔を人に向けることは当たり前で。人が生きていく上で必要なことで。捨てるべきではなかったかもしれないと、オレですら思っているのだから。でも、オトモダチを拾わなかったのは、オレだ。でもきっといつかオトモダチは現実の坂口香乃によって拾われる、そんな気がする。
「人を信じるってどうやるの」
俺の中で最大の疑問となってしまった、彼女にとっては当たり前のことを、尋ねた。
「どうって、話せる人はみんな友達じゃないの?」
彼女にとって当たり前のこと、当然のことを聞いたにもかかわらず、彼女は嫌な顔一つせずに笑って答えた。
「話せる人、ね」
そんな人がそもそも減るんだよ。気軽に話せた人に話しかけることすら気後れするようになるんだよ。でもそんな状況、気持ちをいくら語ったとしても、それは時間の無駄なのだろう。
「私はどうしてそんな風になっちゃったんだろうね」
今のオレが同じセリフを言えばきっと嫌味になってしまうだろうに、彼女の言葉はそう聞こえなかった。それはきっと、口調と表情が今の俺とはまったく異なるからだろう。
「人を信じるのが怖くなったから。笑うのが疲れたから」
「でもそうしなきゃ生きてくの辛くない?」
「そうする方が辛いんだよ」
オレと彼女は根本的なところが違う。もう成長しないオレたちは決してわかりあうことができない。
「人を信じて傷つきたくない。自分が信じてたものが全部最初から何もなかったなんて悲しすぎでしょ。独りよがりで超惨め。だから人を信じるのが怖くなった。裏切られるくらいなら最初から何も持たない方がマシ。無駄にいらない愛想を振りまいて上辺だけのオトモダチが増えてくより、本当の自分でいられる大切な人が少しいればそれでいい」
アンタは本当に幸せだと思うよ、と心の中で言った。
「そうかもね」
彼女は笑っている。でも彼女は信じ続ける。人を信じること、愛想笑いを見せること、それが生きていく上で必要不可欠なことなのだと。そしてオレも恐れ続ける。人を信じること。 はっきり言って、心の底から信じられているのは、親友と昂希くらいだ。俺たちはずっと徹底的に噛み合わないのだろう。もしかすると、乙女以上に。
「……なんで今日私のところに来たの?」
「さあ。ただなんとなく、だよ」
それ以上の理由なんてない。強いて言うならば、人間不信になった自分の中で、たった一人の親友が、昂希が、いかに大きな存在だったか改めて認識するため、だろうか。
「そっか。……にしても髪、切っちゃったんだね。伸ばしてたのに。雨の日とか湿気多いとき大丈夫なの? くるくるになったりしない?」
「どうとでもなるよ」
どうとでもなるのは、髪と、オレと、人を信じないこと。
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