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「今頃は、ふたりでイチャイチャしてるんだろうな」
若は酒を煽り飲んだ。
あの秘密の部屋に彼女を連れてくる前に、若はラウンジで恭一郎に電話を掛けた。
『今夜、おチビは俺がもらう』と、宣言して。
土壇場で、自分の本当の気持ちに気づいた恭一郎は恋人のことにけじめをつけ、親友にも親父さんにも頭を下げた。
恋人は恭一郎の気持ちの変化に気づいていたようで、親友とやり直すと笑顔で別れを告げた。
「おチビは人を見る目がないな。どう見ても俺の方がいい男だろうに」
「……その割りには、嬉しそうですね」
「事が思うように運んだんでな。しかし、恭一郎の拳は危なかった。まともに食らったらアウトだった」
あの時、恭一郎を撃ったモノは偽物だ。
恭一郎を庇って飛び出してくると読んでの芝居だった。
「そのくらいの仕返しでもしねえとやってられねえよ。まあ……おチビが幸せならそれでいいけどな。今夜は祝いに呑み明かしてやるさ」
そう言って、若は自分に「榊、付き合え」と笑った。
【完】
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