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「雨、止まねぇな」
「…うん」
テレビでは、さっきまでつまらないけれどぼーっと見ていられるバラエティ番組が流れていたのに、いつの間にか終わってしまったようで、今は朝から同じことしか言わないニュース番組が流れている。
テレビを消したら、俺は話さなければならないだろう。
さっきの光景のことを。
さっきのやつは、俺の…今、付き合ってた男で…あ、俺、ゲイだったんだけどさ……って、やっぱ引くよな。
それで…あいつ、ちょっとキレたら手がつけられないやつで…別れようって言ったら、殴られて…でも、いつものことだし、俺も覚悟はしてたんだけど。
そしたら…そしたらさ…
「…もう十一時か」
「…うん」
そしたら、お前が現れて、突然俺の手を引っ張って走り出して…今、ここにいるけど。
なんでお前、この雨の中あんなとこにいたの?
ただの同僚で、仲は良いけど…別に、昔からの親友ってわけでもない俺のことなんか助けて、自分の家に連れてきてさ…
なんで…さっき玄関で俺のこと、抱きしめたの?
「…雨、止んだら…」
「…うん。帰るよ」
雨で濡れていた俺の体を抱きしめたことで、彼のTシャツが少し濡れている。
今、狭いソファの上で膝が触れ合わないよう端に座っている彼の体温が、俺の体にはまだ残っている。
テレビが消えない。
雨が止まない。
きっとこのままここにいたら、何かが終わって、何かが始まってしまうんだろう。
彼がそっと、動く気配がして、ソファに並ぶ膝が触れ合う。
今、彼の腕がもう一度俺を抱きしめたら、きっともう戻れなくなる。
雨は、止まない。
………END
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