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しかし、わたしの予想は外れた。エヌくんが来た翌日から雨が降りはじめたのだ。最初はこの予想外のできごとを歓迎していたわたしだが、それはすぐ得体の知れない不安へと変わった。降りはじめた雨は止むことを知らず、またそのいきおいも記録的なものだった。何百年に一度の災害だとテレビが警報を流しつづけている。
あわててわたしはエヌくんへ連絡した。どこかで土砂崩れでも起きたのか、救急車のサイレンが雨のなかからあらわれ、そのまま雨音に呑みこまれるように通りすぎていった。
「どうなっているんだ」
相手が出るなり、怒声に近い声を飛ばす。しかし、向こうから返ってきたのは、なんとものんきな声であった。
「いや、ひどい雨だな、まったく。酷暑のつぎが大雨では心が休まるひまがないよ」
「きみはなにを言っているんだ。この雨はあの雨ごいのせいではないのか」
「はは、そんなはずあるわけがない」
「なぜそんなことが言える。あんなに乗り気だったじゃないか。信じていたんだろう、あの儀式を」
「それはいまも信じているさ。しかし、あの日の雨ごいは失敗したのだ」
「失敗だって?」
こうして話しているあいだにも雨脚は強く、都会のビル群を打ちつけている。
「あのあと本をくわしく読んだのだがね。どうもあの儀式を完遂させるには生贄が必要らしい。ああ、あの日きみが言ったとおりさ。つまりどうあがいても儀式は成功しようがないんだ」
「生贄……。それは、何人必要なんだ」
雨の音が心をざわつかせる。その無言の圧力に、どうしても聞かなければいけない気がした。
「ちょっと待てよ。ああ、あった。生贄に必要な人数は――」
雷鳴がとどろき、降る雨はいっそう強くなった。ニュースが、この大雨による犠牲者が出たことを伝えていた。
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