4人が本棚に入れています
本棚に追加
「いい、タエちゃん? 和泉さんが言ったことは――」
奈都と多恵は、まだ会議室の中で話しているようだ。
しかしその内容はおろか、奈都の声色さえ澄絵にはハッキリとは聞き取れなかった。
不安そうに立ちすくむ澄絵に、和泉は彼女が知りたがっているであろう事柄を告げる。
「捨石が言うには……『自分の方が、トーマのキャラクターを理解しているから書き換えた』とのことだ」
「えっ……」
多恵の方が理解している。シナリオライターである澄絵よりも、トーマのキャラクターについて。
自らが口にした内容を否定するかのように、首を横に振りながら和泉は続ける。
「けど、それは捨石が自分好みのセリフをトーマに言わせただけだ。俺も桐生も、あのセリフがトーマのキャラクターに合っているとは思ってない。だから……セリフは朝日さんが最初に考えたものに直させるよ」
和泉の言葉を聞いて、澄絵の中で張り詰めていたものが一気に緩まった気がした。
その場に崩れ落ちてしまいそうな安堵感から、深い溜息をつく。
それと同時に和泉の方も、呆れたような溜息を吐き出した。
最初のコメントを投稿しよう!