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和泉は会議室から離れ、元のフロアへと戻ろうとしていた。
澄絵の気配が全く動こうとしないのを感じてか、和泉はドアノブに手を掛けようとしたのを途中で止めた。
振り向いた和泉に、澄絵は思い切って口を開いた。
「和泉さんっ……あ、あのっ……ありがとう……ございます」
言い終わらない内から、深々と頭を下げる。
澄絵の口をついて出たのは、ありきたりな感謝の言葉。
本当はそんな簡単な言葉では到底言い表せないくらい、深く熱い気持ちが宿っている。
それが、どれくらい和泉に届いたであろうか。
二人しかいない静かな廊下で、沈黙の時間がやけに長く感じられた。
「本当は……」
やがて和泉が何かを口にし、澄絵も頭を上げる。
バツが悪そうに頭をかく和泉の姿が、目に映った。
「本当は俺も、捨石に説教なんか出来る立場じゃないんだ……朝日さんから、そんな風にお礼を言われる人間でもない」
「えっ……?」
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