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「……これ、どう思う?」
シナリオに一段落がつき、パソコンの画面に向かっていた集中が途切れる。
その澄絵の耳に、何やら話し声が聞こえてきた。
「何か……朝日さんらしくないよな?」
朝日とは、澄絵の苗字だ。
聞こえてきた会話の中に自分の名前が出てきて、澄絵は声を漏らしそうになった。
恐る恐る、横目で話し声がする方を窺ってみる。
隣の島で、先輩社員の二人が話しているのが見えた。
(桐生さんと……和泉さん?)
桐生奈都は、澄絵がシナリオを手掛ける乙女ゲームのディレクターだ。
その奈都が、差し出されたスマホの画面を食い入るように見つめている。
社内デバッグ用であるそのスマホを持ってきたのは、プログラマーの和泉だった。
寡黙で近寄りがたい印象のある和泉。だが知性が漂う顔立ちに違わぬ技術力から、社内でも一目置かれているプログラマーだ。
何でも独力で解決できる実力を持った和泉が、誰かに相談を持ち掛ける姿は珍しい。
まして自分の名前が挙がるとなると、澄絵は落ち着かない様子で二人の姿を自席から窺い続けた。
やがて、スマホを手にしたまま奈都が立ち上がる。大方の予想通り、和泉と二人して澄絵の席までやってきた。
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