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「スミちゃん、ちょっといい?」
「はっ、はい! すみません、何かミスしてましたか……?」
二人の会話を盗み聞きしていたと思われないよう、澄絵は慌ててパソコンに向き直った。
しかし声を掛けてきた奈都に対する返事は、自分でも分かるぐらい動揺していた。
反射的に立ち上がり、頭を下げつつ上目で奈都の顔を見る。
その表情は訝しんでいるようにも思える。その一方で穏やかな口調からは、後輩を必要以上に委縮させまいという配慮が感じられる。
「スミちゃん、ここのシーンなんだけど……」
奈都は入社当初から、澄絵のことを親し気にあだ名で呼んでくる。
今、この場面においても普段通りに呼び掛けてくる奈都に対して、澄絵は少しだけ気持ちを軽くすることが出来た。
奈都は澄絵の入社前、澄絵が学生時代にハマっていた乙女ゲームのシナリオライターを務めていたこともある。
ディレクターとしてだけでなく先輩ライターとしても、奈都は澄絵に目を掛け色々と指導をしてくれた。
その奈都の期待を裏切ることだけはしたくないと、澄絵は常々考えていた。
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