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「ここで斗真がヒロインに掛けるセリフ……見ててね」
奈都がスマホを差し出し、画面をタップする。
画面には、開発中の乙女ゲームの登場キャラクターであるトーマが映し出されていた。
背景は夜の公園。澄絵は、すぐに思い当たった。
(先週、書き上げたシナリオ……)
月明りに浮かぶ公園をバックに、トーマの立ち絵が拡大化する。
このゲームの画面は、全てヒロインである主人公の視界を表している。
トーマの絵が拡大されたのは、彼がヒロインに近付いたという演出だ。
次に画面が少しだけ揺れる。これは、トーマが落ち込むヒロインの頭を撫でたという演出だろう。
(やっぱり、スゴいなぁ……)
これらの演出は、澄絵が描き上げたシナリオに元々入っていたものではない。
セリフだけのシナリオを元に、内容に沿ったイラスト、音楽、ボイスを当てはめるのは別のスタッフの仕事だ。
まだストーリーを考えるので手一杯の澄絵には、プレイヤーを本当の意味でドキドキさせる演出――イラストや音声の効果的な使い方までは頭が回らない。
別のスタッフが組み込んだ演出を見ることで、文章だけの自分のシナリオが活き活きと動いていく。
その様に、澄絵は素直に感心していた。
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