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「……えっ?」
スマホの画面の中で動くトーマに、半ば見惚れていた澄絵の思考が止まった。
演出にばかり気を取られていた澄絵の視線が、トーマが発したセリフを捉えた。
瞬間、澄絵は信じられないものを見た気がした。
『今日も失敗してたな、へなちょこ。
お前はそれでいいさ。俺がフォローして
やるから、俺だけを見てろよ』
ここは、トーマがヒロインを優しく慰めるシーンだったはず。
少なくとも澄絵は、そのつもりでテキストを起こした。
提出する前に、何度も確認したのだから間違いはない。
(ウソ……私、こんなの書いた覚えない!)
澄絵が思い描くトーマは、決してヒロインの失敗を笑ったりはしない。
夢へと向けて頑張るヒロインの努力を認め、その姿勢に尊敬の念を抱いている。
ヒロインの手を引いて自分の高みにまで導くのではなく、ヒロインと手を取り合って同じ夢を目指していく――それが、トーマの物語だと考えている。
自分なら絶対にトーマに言わせることのないセリフを読んで、澄絵は絶句していた。
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