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「……これ書いたの、やっぱり朝日さんじゃないんだな?」
言葉を失っていた澄絵の耳に、和泉の声が染み入るように届く。
スマホから顔を上げると、アゴに手を当てて考え込む和泉の姿が目に映った。
「このセリフだと、トーマのキャラクターに合わない。そうだよな?」
「う~ん……そうねぇ。もしスミちゃんがトーマの性格を把握してないんだとしたら、ちゃんと意識合わせをしといた方がいいと思ったんだけど……」
トーマのセリフを頭から再生し直しながら、奈都と和泉が話し合う。
両者のやり取りを側で見守る澄絵の中で、一つの確信が生まれていた。
それは、澄絵が違和感を覚えたトーマのセリフを、先輩社員の二人も“合っていない”と感じていることだ。
澄絵が信頼する二人が、自分と同じ感想を抱いている。そのことに、自分が考えているトーマのキャラクター像が正しいことを確信した。
それと同時に、不安も胸の奥底で渦巻く。
(これは、私が書いたシナリオじゃない……それを証明するには……)
澄絵は決して、トーマのキャラクターを把握していない訳ではない。奈都も和泉も、そう信じてくれている。
その二人の信頼を裏切りたくないと、澄絵は思考を巡らせる。
やがてパソコンを操作して、画面に映し出す。自らの身の潔白を証明する情報を。
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