ニキビ

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ニキビ

 鼻の下に大きなニキビができた。鏡で自分の顔をうつすと、どうしてもそこに目がいってしまう。まるでニキビが一つの人格を持って、のさばっているようだ。  学校へ着いてからも、ニキビが気になって仕方がない。私はなるべく友人と目を合わさないようにして、髪の毛で顔を隠した。その日は一日、肩身が狭く、呼吸が浅かった。  帰り道、なぜ私はニキビ面なのだろう、と中学生の時から繰り返し考えてきた悩みに、また囚われていた。毎日きちんと洗顔をしているのに、高校二年生になってもニキビ面は治らない。同級生には顔いっぱいに赤ニキビが散在しているのに、前髪もあげて肌をさらしている子がいる。ニキビをからかわれても、笑い飛ばしている子もいる。しかし私には真似できない。たとえニキビがなくても、私の顔は不細工だから。  そんなことを悶々と考えながら家の近くの路地へ入った時、一人の少女が踊っていた。細い四肢がしなやかに伸びる。バレエの練習だろうか。小さな顔が差し込む夕陽に染められ、肌がつるりと光っていた。美しい光景に見惚れながら彼女のそばを通りすぎた時、耳元に「ブス」と低い声が吹き込まれた。少女が私に発した言葉だとすぐわかったが、あえて振り返らずに歩みを進めた。私の外見がブスなのは自覚しているよ。でも、そんなことを赤の他人に告げるあんたの心のほうがブスだよ。そう言い返したかったが、言えなかった。ブスが何を主張しても、所詮はブスの戯言なのだと、私の中の誰かが嘲笑していた。  翌日、鼻の下のニキビはほとんど無くなっていた。親友に挨拶をすると、 「昨日は怒ってたの? 全然目を合わせてくれなかったから、嫌われたのかと思ったよ」  と心配された。親友は目が大きくて鼻も高く、スタイルも良い上に肌がきれいな子だった。本音で何でも話そうねと言い合いながら、私は彼女に容姿のコンプレックスについて一切話さなかった。彼女もまた、放課後の教室で私に隠れてこっそりとファンデーションを塗っていた。私の前では決して塗らない。そのあざとさに気付くたび、嫉妬で悶えていた。
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