思い

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思い

  「花、済まんが頼むな」 『いいよ。1時に待ち合わせの場所に着くようにするから。ジェイには何も言ってないけど』 「それでいいんだ」 『聞いていい? なにするつもり?』 「悪い。聞かないでくれ」 『……分かった。俺は一緒にいなくていいんだね?』 「店の前で別れてくれていい」 『了解。俺が言うの変だけど。ジェイのこと、頼むね』 「もちろんだよ。俺の大事な配偶者だ」  花の笑い声が小さく聞こえた。 『哲平さんから朝電話があってさ、「夫婦なんだからお前は首突っ込むなよ」って。俺って信用無いなって腹立った』 「俺はお前たちを信じてるよ。いつだって真剣に思ってくれてる。俺も時々お前に腹が立つが、いてくれて嬉しいよ」 『そこは素直に「ありがとう」って言おうよ』 「俺はそういうキャラじゃないんだ」  ちょっとした冗談めいたやり取りをして電話を切った。いつも通りに家事を終わらせてシャワーを浴びた。身支度を整える。時計を見た。11時55分。  ジェイの母の写真の前に置いた物を手に取る。しばらくそれを見てポケットに入れた。コートに袖を通す。ピリッとした冷たい空気の街に出た。  12時45分に野坂駅に着いた。その店の入り口が良く見えるところに立つ。  それほどは待たなかった。12時52分。駅の階段を下りてくる花とジェイの姿が見えた。渡したスーツを着ているジェイが花と話している。会わなかったのはほんの僅かなのになんと懐かしいのだろう…… (きれいだ……)  何かを問いかけているらしい。花が首を横に振る。聞くのを諦めたような顔でジェイはその店に目をやった。入り口の手前で花が足を止めた。ジェイがその手を掴もうとする。けれど花は両手をちょっと上げてジェイに向けた。花の言葉が聞こえるような気がする。 『悪い、俺はここまで。とにかく中で座ってろよ』  うなだれたようにジェイが1人で店に入って行った。それを見送って花は駅へと踵を返した。 (花。ありがとう) 階段を上っていく花は足を止めなかった。 カラーン (あの頃と変わってない)  喫茶店の温かさとコーヒーの香りに包まれる。ジェイはちょっと奥のテーブルに座っていた。水だけがあり、店の中を見回している。真っ直ぐそこに向かった。ジェイはすぐに気づいた。 「蓮…… 蓮!」 「なんだ、何も頼んでないのか?」 「蓮が来るなんて花さん、言わなかった」 「俺が黙っててくれって言ったんだ。不安にさせて悪かった」 「どうして? 急にこんなところに……」 「立てよ。後でもう一度ここに来よう。俺についてきてほしい」 「どこか行くの?」 「ああ。お前と2人で行く所がある。教会だ。この近くにあるんだ」  -その4- 完  
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