518人が本棚に入れています
本棚に追加
蓮は、今のところ花夫婦は大丈夫そうだと安心してキッチンに戻った。手は足りている。花は1人で来たからジェイにエプロンを外させて向かいの椅子に座らせた。花もジェイと喋ることでストレス発散が出来る。
この2人は仕事でも長いことコンビだった。花が完全に気を許して話が出来るのはやはりジェイ相手だ。
「土曜はさ、父さんまで来るって言ったんだ。俺が『勘弁!』って言う前に花月が『勘弁してよっ!』ってさ。孫にそう言われるってなんだろうな」
「まさなりさんが可哀そうだよ」
「冗談だろ? 来られて可哀そうだったのは俺だよ! 週末は来なくていいって母さんに言ったけど花音は週末にだけ来てもらえって」
『お父さんがいる時に来てもらえばお父さんが面倒見れるよね?』
2人とも決して、まさなりさんとゆめさんを嫌いなわけじゃない。むしろ好きだ。けれど生活という実践の場で、祖父母がどれだけ力になるかについては懐疑的だ。
『お母さんも疲れちゃうよ!』
そう言われて、仕方ないから言われた通りにした。週末に2人を呼んで、その世話を一手に引き受けた花。結局紅茶を出してクッキーを出して話し相手になってやる。自分以外は万事それで上手く行っていた。2人はそんな様子を見ながら真理恵に微笑みかける。
真理恵はどうやらそれが可笑しかったらしくクスクスと笑っていた。
「あれ、マリエじゃなかったら通用しないよ! 母さんはマリエのためにって歌を歌うしさ、父さんは『真理恵ちゃんの姿を今の内に描いていいだろうか』って、俺思わず叫んだんだ。『マリエは手術終わったら無事に帰ってくるんだから不気味なこと言うな!』って」
「まさなりさんもゆめさんも寂しいんじゃないかな」
「寂しい?」
「だって花さんたちが大変なときに何も出来ずにいるでしょう? すごく心配してるんだと思う。でもそれを上手く伝えられなくて」
息まいていた花の表情が少し和らいだ。
「きっと何かしたいんだよ。だから大ケガしてもハンカチ作ったんだよ。まさなりさんも言葉は良くないのを使っちゃったけどそういう気持ちじゃなかったと思うよ」
「……そうか…… お前の言う通りかも」
「花さんは自分のお父さんやお母さんに厳しすぎるから。お願い、分かってあげてよ。それが出来るの、花さんだけでしょ?」
ランチが終わる頃には花はすっかり落ち着いていた。
「ありがとう。やっぱりお前と話すのが一番いい。父さんと母さんにもう少し優しくするように頑張るよ」
「真理恵さんは分かってくれてるから。だから大丈夫だよ。これね、土日に蓮と八景島っていうところに行ってきたお土産。みんなで食べてね。かづくんやかのちゃんに頑張ってるからプレゼントだって伝えて」
「ありがとう! きっと喜ぶ!」
「また来てね…… 来れる時でいいから」
「ランチは来る。弁当断ってるから。それから来週はちょっと休むと思う。見舞いは悪いけど控えてくれるか?」
「うん。蓮にもそう言われてるよ」
「ありがとな」
花はキッチンの蓮に頭を下げた。蓮は手を上げて応えた。
蓮は2人を見ていた。やはりその繋がりはジェイの人生に不可欠なものだと再認識する。
(花、感謝してるよ。お前に代われる者は誰もいないんだ)
最初のコメントを投稿しよう!