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それをお嬢から言われて優作は考えた。
(俺がジェイに何か教える…… 勉強させる?)
優作は実はまじめな男だ。のめりこむタイプ。こう、と思ったら突き進む。そこには混じりっけ無しの真っ直ぐな心がある。だから真剣に悩んだ。
(だめだ、分かんねぇ!)
考えに考えて(1日だけ)、次の日の土曜、のんのの家を訪ねた。『勉強』と言えばのんのだ。ところが留守。源に電話をする。
「のんのさんがいねぇぞ!」
『なに言ってんだよ! 今俺と…… 聞くな!』
「悪い、ベッドで一緒か?」
『……かけてくんな!』
それで24日の月曜、またのんのの家に出かけた。留守。
「源か? のんのさん、いねぇぞ」
『仕事に行ってるよ!』
「そうか。じゃ帰りを待つよ」
そばにある喫茶店で粘り、途中で蕎麦屋にうどんを食べに行き、また喫茶店にこもってやっと帰宅途中ののんのを見つけて道路で捕まえた。
「ジェイに勉強を教える?」
道路でのんのは首を捻った。優作は端的に聞いたのだ。
『ジェイに勉強、どう教えたらいいのか』
「まさか麻雀とか博打じゃないだろうな」
「俺はギャンブルは嫌ぇだ!」
そうだ、特に麻雀は。こういうところも真面目。タバコも吸わない。せいぜいパチンコ……
「おい、まさかパチンコか?」
「あ、なるほど! それなら教えられる!」
「……どうしてジェイに勉強を教えるつもりになったんだ?」
「俺がそんなこと思うわけねぇだろ、お嬢がいきなり言ったんだ」
(お嬢が絡む……)
「じゃな!」
もう走り出した優作を追いかけた。
「待て! 優作、待て!」
怒鳴りながら走って、ようやく優作は止まった。のんのの方が足が遅い。
「なんだよ」
のんのはもうゼイゼイ言っている。
「あの、な、お嬢が、絡むんなら、パチは、だめだ」
「どうして!」
「お嬢が、ジェイに、パチ、やらせる、わけ、ないだろ」
「じゃ、何教えろってんだよ!」
「お嬢に、聞け」
「そんな真似できるか!」
お嬢に言われたのにお嬢に聞き返す……
『あんた、私にもう一度言わせる気?』
そんな言葉が聞こえてしまう。
「いいよ、のんのさんで分かんないなら……」
「じゃ、テルさんに聞け。あの人なら人生経験、豊富だ」
「そうする! じゃな!」
また走って行ってしまった。
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