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テルは困った。
「ジェイに教える? なにを?」
「分かんねぇから聞いてんだよ! なにを教えたらいい? どう教えりゃいい?」
「お嬢は何て言ったんだ、正確に言ってみろ」
「正確に………………分かんねぇよっ! 成長がどうとか、深くなるからどうとか……深い、浅いって水か? 溺れないように水泳教えろってのか? けど俺は金づちだしお嬢はそれ知ってんのに」
(絶対に違うな。こいつ、結局なにも聞いちゃいねぇ)
「少しこの話預けろ。考えてやる」
「恩に着るよ! じゃ、俺は考えなくていいんだよな?」
「今はな」
最後の言葉は聞こえなかった(聞かなかった?)らしく、優作はさっさとテルから離れてしまった。
「すみません、お嬢。聞きたいことがありまして」
「あんたがこんなとこに呼び出すなんて初めてよね」
ありさの住んでいる場所の隣の駅近くのファーストフード店。さんざん考えてテルはお嬢に直接聞くことにした。お伺いを立てるとお嬢は会って話を聞くと言ってくれた。
「本当にすみません」
「いいわよ。それで?」
「優作の件ですが。あいつに言ったことを教えてほしいんです。お嬢、優作にジェイのことどう言いつけたんですか?」
「ああ、教えろって話ね」
「そう、それです!」
「分かった。意味が分かんなくてあんたに聞いたんでしょ」
「その前にのんのに」
「相変わらずねぇ」
ありさは笑った。
「あのね、ジェイをもっと大きく成長させたいと思ったのよ。あの子の世界は今どんどん狭くなってる。けど本人は気づいちゃいないのよね。あのままじゃ潰れるか行き詰るか。なんにしろ良くないと思ったの。優作はシンプルにものを考えるしジェイ相手だって手を抜かないと思ったのよ。だから優作の見る世界をジェイに教えてほしかったの」
テルは納得した。けれどそれは……
「お嬢、分かってるでしょうに。優作にそんな風に言ったってお嬢の意図なんぞ分かりませんよ。あいつの思考はイノシシなんですから」
「知ってる。だからね、ジェイといたら逆に優作にもいい勉強になるかなって。一石二鳥って考えたんだけどね」
「甘いですよ! 優作は深読みなんか出来ないんですから。オマケに待たない。言われたらとにかく動く。ほっといたら」
「分かった、分かった。もう一度優作と話すわ。しょうがないな、もう」
そしてありさは優作と話すために三途川本家に出かけた。
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