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テルは戦々恐々だ。お嬢の指示ならNOは言えない。
(ひょっとして俺が一番可哀そうになるんじゃないか?)
「優作、あんた明後日の夜、なごみ亭に泊まりなさい。土曜はジェイと一緒に過ごして先生になること」
「俺、先生になんかなれねぇです!」
「人は誰だって何かの先生になれるもんよ。あんたはジェイに自分を見せればいいの」
「俺? 俺の何を?」
「生き方とか考え方」
(お嬢、それじゃこいつには益々分かんなくなりますよ!)
「あのね、優作。あんたは自分が思ってるほどバカじゃないのよ。それどころかこの家で一番物ごとを一生懸命考えるのはあんただと私は思ってる。頑張り屋だしね」
「おだてても出来ねぇもんは出来ねぇです」
「おだてちゃいないわよ。あんたが何をジェイに教えるのか、私は楽しみにしてんの。どうしたらいいか分かんないって顔してるわね」
「実際分かんねぇですから」
テルははらはらしている。優作の返事は早過ぎる。相手の言うことをちゃんと聞いているのか心配になるくらい。
「大丈夫よ。どうしても困ったらテルがアドバイスくれるから」
「え!?」
素っ頓狂な引っくり返ったような声になるのは当たり前。
「テル、あんたは優作のアドバイザー。いい?」
(『いやです』なんて返事、聞く気無いくせに)
泣きそうな顔に、ありさは満足げに頷いた。その顔にはこう書いてある。
『そりゃもちろん、逆らわないわよね?』
(お嬢! 卑怯ですよぉ)
問題が一つ減ったような顔でありさは優作に問いかけた。
「ジェイのこと、どう思う?」
「どうって……」
(お! 考えてる! その調子で1人でやっていけ!))
「いいヤツです。素直だし真面目だし。けど時々外れる」
「その『外れる』っていうことについてあんた、どう思ってるの?」
「ジェイの『しちゃいけねぇ』ってとこが外れてんですよ。あれで40にでもなったら誰にも相手されなくなっちまうんじゃねぇかな。そりゃ俺たちは別だけど。つまりあいつを知らないヤツはきっとつき合えねぇ」
(驚いた…… こいつ、結構核心ついてやがる。しかも誰も言いたがらねぇところを)
感じてはいたことだ。今はいい。だがこの先、あっちゃならないことだがもし大将に何かあったら。ジェイは1人でどうやって生きていくのだろう。
(そりゃ俺たちだって花や哲平だっている。けどなぁ…… ジェイ自身はどうなるんだろうな……)
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