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宗田家の騒動
八景島から帰ってきた翌日の月曜、朝。
市場はジェイに頼まれて源ちゃんと匠ちゃんが引き受けてくれた。蓮は朝寝坊している。モーニングの用意はジェイが中心になって終わり、その頃になってスタッフルームの入り口から蓮が慌ただしく入ってきた。
「おはよう! 悪い、寝坊した!」
「おはようございます! 大丈夫よ、店長が仕切ってくれたから」
眞喜ちゃんの向こう側にジェイの笑顔が見えた。蓮はジェイの姿が無いことにも慌てたのだ。
ジェイのそばに行く。
「心配したんだ、お前がいなかったから」
「ぎりぎりまで寝せてあげたかったの。そろそろ起こしに行こうかと思ってたよ」
「市場は?」
「もうすぐ源ちゃんと匠ちゃんが帰ってくるから」
「そうか。ありがとう」
花は来なかった。きっと真理恵を気遣い、時間いっぱい家にいるのだろう。
「花さん…… 真理恵さんも大丈夫かな」
「そうだな」
宗田家にもいっぱい土産を買ってきた。でもどうやって渡したらいいか分からない。
「哲平に預けよう。それなら花月たちに届くよ」
「そうだね。ランチに来たら預けるよ」
そのランチに花が来た。
「花さん!」
「よ!」
「真理恵さんは!?」
「どうなの? 来週でしょ、手術は」
蓮もキッチンから出てきた。
「顔を見れて良かった! すぐキッチンに戻る。お前は大丈夫なんだな?」
「俺には子宮が無いから」
「バカ!」
「マリエは寝せてる。茅平のお母さんがずっと来てくれてるから大丈夫だよ。三途さんと莉々さんも。 ……時々母さんが邪魔しに来るけど」
あれは『邪魔しに来ている』と花は思っている。
『時恵さん、これはどうしたらいいかしら』
「あぁ、どうしてこれと一緒に洗ったの? 風花の服が紫になっちゃって……』
『でも素敵な色合いだと思わない?』
『思わない! 紫なんて子どもが着る色じゃないでしょう』
『そうなの? じゃ、それでハンカチを作るわ』
『はいはい。じゃ、ハンカチ作ってじっとしてて』
そのハンカチを縫うのにあちこち指を針で刺しては時恵を呼んだ。
『ここに傷バンドを置いておくから。自分でやりなさい』
『でもテープのところがべたべたくっついて時恵さんのようにきれいに貼れないわ』
『こんなことも出来ないの?』
『こんな大ケガしたことが無いもの。お医者様に行かなくて本当に大丈夫かしら』
『花ちゃんも転んだことくらいあるでしょ!』
『だってあの頃は静さんがやってくれたから』
「聞いてて情けなくなる。今は花月が母さん担当。花音は怒るから」
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