雨の日のショパン

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演奏を終えた先輩は僕と体を向き合わせる。 「でも、ちゃんと元に戻るから」 弾き始める前の会話の続きだろう。 穏やかな曲の終わり。初めに聞いた通りの、しっとりとした雨粒の音。 「この曲の中でも最後まで雨はやまない。でも嵐は去るの」 なにかがふわりと引き上げられた気がした。 ◇ それから文化祭の日になった。 ステージ発表は3年生がトリを飾る。 あの後、少しだけ話をした先輩は、発表が最後になるのだけは嫌だと唸っていたけれど、結局何番目になったのだろう。 実のところ、あの人のクラスも名前もなにも知らない。 文化祭が過ぎてしまえば、きっと音楽室で会うこともなくなる。 僕だって遅れた分だけ、これから練習に打ち込まないといけない。 悲劇の中で作られたショパンのあの曲は、最後に嵐が止んだのだ。 雨は止まずとも、きっと嵐は去ってくれる。 きっと先輩もそれを願ってあの曲を弾いていたのだろう。 他人のような右肘を見ながら、僕は静かにそのときを待った。
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