やまない雨はないから【差分】

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 朝、コーヒーを淹れようと給湯室で湯を沸かしていた渡 和哉(わたり かずや)は、人の気配を感じた。  誰だろう。  朝一で出会う人間によって、和哉の一日の気分は決まる。  気分屋で現場をかき回す常務なら、凶。  人当たりは良いが実は腹黒の部長なら、末吉。  面倒見が良いが暴走するとおせっかいになる課長なら、小吉……。  そんなことを考えていた和哉だが、給湯室に入って来た人物を見て、すぐに気分は大吉に跳ね上がった。  遠慮がちに足を踏み入れた人間は、峰松 翼(みねまつ つばさ)だった。  将来有望な、新人だ。  明るく、素直で、真面目。  まるで砂が水を吸い込むように仕事を覚えてゆく姿は、頼もしかった。  ただ最近、時折ぼぅっとしていることがある。  気になっていた和哉なので、これを機に訊ねてみようと思った。
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