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カラオケボックスを出ると、雨はまだ降り続いていた。
「雨、やみそうにないですね」
「そうだね」
二人で身を寄せ合って傘に入り、和哉はタクシー乗り場まで翼を送った。
翼は、もう泣いてはいなかった。
瞼は腫れていたが、表情は悪くない。
そんな翼はタクシーのドアが開いた時、思いがけない言葉を和哉にかけてきた。
「渡さん、僕のマンションに来てくれませんか?」
「え?」
「ご馳走になった御礼をしたいし、服も乾かさないと。それに……」
「それに?」
「今夜は、一人になりたくないんです」
和哉は、一瞬迷った。
(誘ってるのか?)
しかし、カラオケボックスであれだけ泣いていた翼を思うと、一人にするには心配でもあった。
元カレのことを、生々しく思い出させた罪の意識も働いた。
「いいの?」
「どうぞ」
短いやり取りで、和哉は翼のタクシーに乗り込んだ。
長い夜の、始まりだった。
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