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「お邪魔します。うわぁ、とても男の一人暮らしとは思えないなぁ」
翼のマンションで、和哉は思わず声を上げていた。
清潔に掃除された床に、必要最小限の家具類。
窓辺の観葉植物は活き活きと繁り、かすかにアロマの香りもした。
「よかったら、シャワー使いませんか? その間に、服を乾かしますから」
「じゃあ、遠慮なく」
和哉は、腹をくくっていた。
もし、翼が関係を求めてきたら。
「その時は、なるようになるさ」
熱いシャワーを浴びながら、和哉はつぶやいた。
ただ、これは一夜限りのことと思え。
そう、自分に念押しすることも忘れなかった。
「峰松くんは、寂しいんだ。ただ、無性に誰かに傍に居て欲しいだけなんだ」
和哉は、優しい男だった。
ただ、ただ優しかった。
その優しさゆえに、『良い人』で終わってしまった恋の入り口が無数にある。
和哉の心の中にもまた、やまない雨は長く降り続いていたのだ。
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