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「これって……、ホタル、ですか?」
「そう。ゲンジボタル」
小さな光が、ぽつん、ぽつんと灯っている。
優しく息づくように明滅し、ふわりと宙を飛ぶものもある。
「綺麗だ」
「峰松くんは、ホタル初めて見る?」
「はい。でも、こんなに幻想的だなんて」
画像や動画でなら、群舞を見たことがある。
だが、現実に自分の眼で見るホタルの光は、翼の心を大きく揺さぶった。
「毎年この頃になると、飛ぶんだ。三面張りの側溝みたいな小川だけど、逞しいよね」
そして、雨や風のない日を選んで、恋の光を灯しながら飛ぶ。
「昨日は雨がたくさん降ったけど、今日はもうやんだよね。ホタルは雨の多くなるこの時期に、限られた時間の中で精いっぱい輝いて恋をするんだ」
だから、と和哉は翼の肩をぽんと叩いた。
「峰松くんも、雨がやんだらまた輝けばいい。うんと光って、次の恋をするといいよ」
「渡さん」
ありがとうございます、と翼はうなずいた。
僕は大丈夫。
もう、次の恋は始まっているから。
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