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昨夜は、ほとんど眠れなかった。
ただ涙を流し、いたずらに夜を明かした。
思い出すと、また泣けてくる。
翼は、指で瞼を押さえた。
そんな彼に、和哉は冷凍庫から出した保冷剤をハンカチに包んで翼に渡した。
「これで、少し冷やすといいよ。人が見たら、驚くだろうから」
「そ、そんなに酷い顔してますか、僕」
「何かあったの?」
「いえ……」
黙って保冷剤を目に当てる翼だが、訳ありの匂いがぷんぷん漂っている。
和哉は気軽さを装って、翼を誘ってみた。
「業後、空いてる? よかったら、食事に付き合って欲しいんだけど」
「いえ、その」
「奢っちゃうよ? 給料出たばかりだし」
「でも」
否定も肯定もしない翼の返事を、和哉はいいように利用した。
「じゃあ、決まり。残業入れないでね。楽しみにしてるから」
「あ、はい。ありがとうございます!」
そこで和哉のコーヒーが、最後の一滴まで落ちた。
「コーヒー、ありがとうございました」
「うん。いいよ」
給湯室から出て行く翼を見送り、和哉は苦味の強いコーヒーを口にした。
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