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「雨になるって予報では言ってたけど」
まさか、ここまでの本降りになるとは思っていなかった。
社員玄関の軒で待っていると、翼がようやくやって来た。
「お待たせして、すみません」
「いや、そんなに待ってないから」
じゃあ行こうか、と一歩踏み出し、和哉は驚いた。
雨の中、翼は傘もささずに歩き始めたのだ。
「おいおい、傘は?」
「持って来てなくて」
「じゃあ、狭いけど俺の傘に入れよ」
「いえ、いいんです」
雨に打たれて、少し頭を冷やしたいんです。
そんな風に、翼は小さな声でつぶやいた。
「いいから入れよ。体に毒だぞ?」
細い肩を掴み、ぐいと傘の中に入れてやると、翼は抵抗なく動いた。
力を入れる元気も無いのだ。
(これは相当、重症だな)
仕事がらみで何かあったか、それとも。
(プライベートで事件が起きたか、だな)
どうやって聞き出そうか、と思案しながら、和哉は雨の中を翼と一つの傘に入って歩き始めた。
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