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焼き肉店に入り、生ビールをジョッキ2杯干したところで、翼はようやく陽気になってきた。
よく食べ、よく喋り、よく笑うようになっていた。
そこを見計らって、和哉は話の流れに沿って訊いてみた。
「だけど最近、峰松くんは少しおかしいよ?」
「そうですかぁ? 僕はいつもおかしいと思いますけど?」
「茶化すなよ。勤務中、ぼんやりしてること、あるよ」
は、と翼は口元に持って行った箸を止めた。
「そう、ですか」
「何か、あったの?」
「いえ、別に……」
それ以上は何も語らず、翼は箸をおいた。
「無理して訊こうとは思わないけど、よかったら力になりたいんだ」
和哉の言葉に、翼は顔を上げた。
(渡さん、それで僕を誘ってくれたんだ)
朝、コーヒーを淹れてくれたこと。
保冷剤をハンカチに包んで、渡してくれたこと。
雨の中、傘に入れてくれたこと。
彼の優しさが、今の僕にはひどく身に染みる。
黙ってしまった翼に、和哉は明るく話しかけた。
「よし! じゃあ、次はカラオケ! 思いきり歌うぞ~」
遠慮する翼の腕を引き、和哉は立ち上がった。
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